愛憎紙一重
春なので、パンプスが欲しい。
現在、会社に履いていっているパンプスは、ブルーグレーのスウェード。
雨にやられて色味は変わってしまったけれど、お気に入り。
とは言え、春、はまだ誤魔化せても、夏には向かない。
だからそろそろ、新しいパンプスが欲しい。
と、思っていたら、GRIから15%OFFのお知らせが届いた。
お給料も入ったことだし、と、うきうきしながらうららかな春の陽射しの下、
自転車を走らせ、一路、NINE WESTへ。
飛び込んできたのは、鮮やかな色彩のプリント地。
春どころじゃない。
夏だ、リゾートだ。
言うまでもなく、好みである。
春なんてすっ飛ばして早く夏になって欲しい。
夏にもなって欲しいが、とにかくこのパンプスが欲しい。
試し履きして、鏡に映して、自分の太い足は無視して、
ただただパンプスにうっとりする。
ややヒールは低いが、普段使いには、リゾート使いにはちょうどいい。
しかし店員のひとことで我に帰る。
「華やかでいいですよね、通勤には流石にちょっと難しいですけれども」
通勤。
そうだ、通勤。
私は会社に履いていくパンプスを買いに来たのであった。
無様な足をくるむ華やかな鮮やかなプリント地を、泣く泣く、脱ぐ。
気を取り直して、通勤用パンプスを探す。
で、きれいなブルーのバックストラップを見つける。
恐らく、先のパンプスに出会っていなければ、迷いなくお会計を頼んでいた。
デザインはシンプルだけれども、さほどに色が気に入った。
が、悲しいかな、私は既に他に惚れていたわけである。
かと言って、件の華やかなパンプスを買ってしまっては、
ただでさえ憂鬱な春が、ブルーグレーのままになってしまう。
かと言って、ブルーのバックストラップを買ってしまっては、
確実に憧れと惜しさだけが残り、足元を見るたびに哀惜に駆られてしまう。
かと言って、両方買ってしまっては、
あまりの贅沢に恐ろしくて履けたものではなくなり、
何より生活苦に陥る恐怖に駆られる、くせに変わらない生活を送り、苦しんでしまう。
悩んだ挙句、何だかもう、気分までも悪くなってきて、
楽しんで買い物を続けることがとてもじゃないができなくなり、
他の店を回ってもまさか心惹かれるものに出会えることもなく、
結局、どちらも買わずに帰ってきたのだった。
が、帰ってきたくせに、依然として後ろ髪引かれる思いで、諦めきれない。
細々としたことを片し、掃除洗濯炊事を済ませ、
PCに向かって始めたことは、懲りもせず靴探し。
双方の画像をもう一度、と思って、PCをかたかた言わせていたら、
更に恐ろしい事態に陥ってしまった。
先の鮮やかな華やかなパンプスより更に私を興奮させるものを見つけてしまった。
USサイトで。
まずい。
店頭で見なかったのは、たまたまなのか、未入荷だからなのか。
入荷予定がなかろうが、ネットで買えるなら、
これはもう、通勤とかどうでもいい、買うのである。
が、悲しいかな、国外発送を受け付けていない。
言うまでもなく、他ではヒットしない。
まずい。
あぁもう、気分が悪い。
買えないだけにいっそう欲しくなるが、買えないものをどうしようというのか。
あぁもう、気分が悪い。
頼むから楽しく買い物をさせてくれ、いや、してくれ、私。
とりあえず、再来週あたり、少し頭を冷やして再度行って、
最後に見つけた大物が入荷されていなければ、
大人しくブルーのバックストラップを買おうと、今はそう思っている。
明日にはどう思っているか知らないが。
再来週、いざお店に行ってどう苦しむかなど知りたくもないが。
あぁもう、これだから買い物は苦手だ。
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