伊達な旅
携帯を家に置き去りにしたまま、仙台に行って参りました。
どうせメールも電話も来ないだろうと高を括っていたが、
意外なことに、こんなときに限って、方々から連絡が入っていた。
申し訳ありませんでした。
今週は、週明け、というか先週末から体調を崩し、
週半ばにして起きた事件のために不眠に陥り、
と言いつつ人との電話の最中に眠りに落ちたものだが、
とにかくそんなこんなで、本当に行けるものかと不安もあったのだが、
まぁ行ってしまえば行けるものである。
兄と、姉になる人と、3人で松島に行ってきた。
…松島、というより、牡蠣食べ放題と、かもめとの戯れ。
秋になったら牡蠣の食べ放題に行こう、と兄が誘ってくれたのは、夏の終わり。
何度痛い目にあっても牡蠣が愛しい私は、
早く行きたい早く行きたいとうずうずしていてのだが、
折りよく、人に会うという別の目的も重なって、芽出度くも実現の運びとなった。
夏の終わりに誘われたときから、ひどく汚いところだとは聞いていた。
と聞いていても、別段問題は感じていなかった。
が、ここ数日、交わした兄とのメールで、少し不安を覚える。
汚いところだし、汁が飛び散るから、ジャージとは言わないまでも、
汚い格好で着なさい、としきりに兄が言うのである。
汁、て何だそれ。
汚い格好、と言われても、荷物は増やしたくないから、
会社帰りそのまま、着の身着のままで過ごしたい。
大体、初対面の人に会うのに、観光もするのに、ひどい格好でいたくはない。
結局、寝巻き代わりの汚いパーカを1枚持って、
食べるときだけ羽織ることにした。
にしたって、どれほどのところなのかとの不安は消えない。
車を降りたら、漂ってきたのは、牡蠣、というか強い磯の香り。
眼前には、2つのプレハブ、というか掘建て小屋。
いかにも海の男、海の女、という体の、ゴム長をゴムエプロンのじじばば。
リアカーに、ごみのように盛られた、殻付きの牡蠣。
そしてその牡蠣をスコップで盛って小屋の中に運び込む兄ちゃん。
入れ替わりに、牡蠣殻でいっぱいの一斗缶を引っ提げて出てくる兄ちゃん。
ふむ、確かに、汚い。
しかし今更そういう光景に退く私でも、彼でも彼女でもない。
随分と人が待っていたが、案外待たされることもなく、10分かそこらで席につく。
7、8人でひとつのテーブル、というかどでかい鉄板。
ちょうどお好み焼き屋さんのテーブルを大きくして、鉄板面積を広くした感じ。
焼肉屋さんみたく、紙エプロンをつけて、
スカートの私には膝にかけるタオルも支給され、
左手に軍手、右手にナイフとお箸を装備。
で、スコップで大量の牡蠣が鉄板上に投入される。
最初はこれまたどでかい蓋をして、殻のまま、蒸し焼き。
すると、確かに、汁が出てくる。
蓋の隙間から、飛び散る、熱い。
おばちゃんが、汚いタオルでテーブルや鉄板を拭いてくれるが、
もはや汚いとか、どうでもいい。
いざ、実食。
文句なく、美味しい。
水揚げされたそのままだから、潮が効いていて、レモンもいらない。
小さいのも大きいのもあったけれど、どれも身が締まっていて、濃厚。
隣に座る兄は、女性2人の殻を割りつつも、
ものすごい勢いで食べていたが、それを恥と思う感覚も飛ぶ空気だった。
少なくなってくると、またしてもスコップで大量に鉄板上に盛られて、
最初しか蓋はしないから、半生のとろとろ状態も堪能。
牡蠣だけでお腹が膨れるものだろうかと思っていたが、膨れた。
ものすごい満腹だった。
一体いくつ食べたのかわからないが、とりあえず1年分は食べたなと思う。
今冬も、食べますけれども。
兄は非常に満足したらしく、食後の一服をくゆらせながら、
「今度、友達でも連れてきなよ、そんでまた牡蠣食べ放題行こう」
と、既に次回の計画まで立てていた。
誰か大量の牡蠣を食べたい人がいれば、言ってください。
でも本当に汚いよ。
さて、満腹になったところで、松島観光。
松島と言えば、日本三景のひとつ。
浮かぶ島々の間を巡る遊覧船で、景勝を堪能しよう、と船に乗る。
が、景色を楽しんだのはほんの数分。
デッキに出た3人が夢中になったのは、かもめ。
船室を出ると、かっぱえびせんが売られていた。
しかしそこには、「かっぱえびせん」とは書かれていない。
「かもめのえさ」と書かれている。
見れば遊覧船の周りには、ハングリー精神に溢れたかもめたちが群がっている。
で、きゃぁきゃぁはしゃぎながら、いい年した男女3人、
えさをやるのに夢中になる。
小心者の兄は、本気でぎゃぁとかうわぁとか言いながら、怯えており、
私がえびせんを手に持ったまま、かもめを待つのに対し、
彼は持っていられず、目の合ったかもめに向かって、えびせんを投げていた。
そんなこんなで松島を後にして、飲みに繰り出すことに。
兄の当初の計画は、ホルモン焼きで、
朝、駅へとぶらぶら歩く最中にそれを言われた焼肉嫌いの私は文句を言ったが、
しかし父が置いていったボトルがあるから、と言われ、
それなら別にいいかと承諾した。
しかし松島からの帰りの車内。
何のはずみか忘れたが、なぜか私は、焼肉嫌いであることを2人に告げる。
驚く2人。
いや、ちょっと待て、兄が驚くのはおかしい。
23年間、兄妹をやっているのに、なぜ今更。
彼が実家にいたときから、彼が焼肉に行きたいと言う度に、
最終的には折れることが多かったものの、毎度毎度文句を垂れてきた。
先日、彼が東京に来たときも、結局焼肉だったけれども、
やはり嫌だ嫌だとごねたはずだ。
で、それが、今更になって、え、お前、焼肉嫌いなの、初耳だよ、と。
人の話を聞かないにも程がある。
私のわがままもあり、また牡蠣をあれほど食べた後というのもあり、
店を変えて客人たる私をもてなそうと、2人があぁだこうだと悩み始める。
本当に、なぜ焼肉が苦手だなどと、うっかり言ってしまったのか不思議で、
ひどく申し訳なく思うが、しかし悩む彼らがどうも面白い。
どうも彼らは、焼肉屋しか店を知らないらしい。
だって、普段食べに行くのって、焼肉か、寿司かどちらかしかない、と言う。
しかし牡蠣の後では寿司でもない。
「じゃぁお前何がすきなんだよ、え、野菜って、野菜居酒屋なんてあるかな」
「もう何年も住んでるのに、焼肉屋しか知らないなんて、反省」
「しかも本当に肉しかない焼肉屋しか知らないなんて、反省」
「中華かな、あそこの店なら美味しいし、ちょっとお洒落」
「でもチェーン店だし、せっかく仙台まで来てチェーンはないよ」
「いや、全国チェーンじゃないよ、てか仙台でしか見たことないよ」
「あ、ちゃんこにしたらいいんじゃない、野菜だし、若できたよ」
「若こそチェーン店だよ」
「nyimaちゃん、中華とちゃんこどっちがいい」
「お前のすきな方にしよう、え、ちゃんこなの、うーん、微妙」
「何それ、今のnyimaちゃんに聞く意味あったの」
「まぁそうなんだけど、一応、まぁそんなわけで、中華で」
車を置いて、新居候補を見て、東北大の古い広いキャンパスを抜けて、
ちょっとおされな中華屋さんで、ご飯とお酒にありついた。
時間も早かったから、その後はチェーンの居酒屋に移動して、
3人して、ビールからワインから紹興酒から焼酎から日本酒まで、
ぱかぱか飲んでしまったのだった。
本当は、仙台に行くのに、ものづごく緊張していて、
この1週間は、何を話せばいいことやらと困っていて、
何人かの人に、どうしようどうしようと言って、
酒飲めば大丈夫だよお前は、と言われて、
そうなるとお酒を嗜まない人、あまり飲まない人だったらどうしよう、と思って、
まぁそんなお酒以外のところでも、どうしようどうしようと思っていたけれど、
お酒も飲むし、何よりやさしい楽しい方だったし、よかった。
bonobosすきだし、よかった。
とにかく、よい週末を過ごせた。
次の遠出は、岩手になりそかな。
『桃』 久世 光彦
芥川が、いいですね。
血盟団とか尼港事件とか、歴史的事件がうまく織り込まれているのも楽しかった。
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